賃貸物件で害虫が発生したとき、「この駆除費用は誰が払うの?」と悩む方は少なくありません。「大家さんが負担してくれるのでは?」と思う一方で、「自分の部屋のことだから自己負担かも」と迷うケースも多いでしょう。
実は、賃貸物件の害虫駆除費用は「原因がどこにあるか」によって負担者が変わります。この記事では、民法や判例に基づいた費用負担のルール、具体的なケース別の判断基準、そしてトラブルを防ぐための対処法を解説します。
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害虫駆除の費用負担を理解するうえで、民法の2つの条文が重要な根拠になります。
大家の「修繕義務」(民法第606条)
民法第606条では、賃貸人(大家)には「賃借物の使用および収益に必要な修繕をする義務」があります。つまり、建物の構造や設備に起因する害虫被害は、入居者が安全に暮らせる環境を提供する義務の一環として、大家が対応すべきとされています。
入居者の「善管注意義務」(民法第400条)
一方、入居者には「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」があります。これは、借りた部屋を適切に管理・清掃し、通常の状態を維持する義務です。入居者の不注意や清掃不足が原因で害虫が発生した場合は、入居者側の責任と判断されることがあります。
| 法的根拠 | 内容 | 該当する場面 |
|---|---|---|
| 民法第606条(修繕義務) | 大家は借主に使用・収益させる義務がある | 建物の構造・設備に起因する害虫被害 |
| 民法第400条(善管注意義務) | 借主は善良な管理者として物件を管理する義務がある | 入居者の生活習慣に起因する害虫発生 |
| 契約書の特約 | 契約書に明記された害虫駆除の負担ルール | 契約書に特約がある場合はそれに従う |

大家負担になるケース
以下に該当する場合は、害虫駆除の費用を大家(管理会社)に負担してもらえる可能性が高いです。
ケース1:建物の構造上の問題が原因
経年劣化によって壁にひび割れや穴が生じ、そこから害虫が侵入している場合は、建物の修繕義務の範囲として大家が対応すべきケースにあたります。
ケース2:共用部分の配管が原因
排水管の劣化や破損が原因で害虫が室内に侵入している場合は、共用設備の管理責任として大家・管理会社が負担すべきケースです。
ケース3:入居前から害虫が住みついていた
入居直後(目安として1〜2か月以内)にゴキブリやシロアリなどの害虫が大量に発生した場合は、入居前から生息していた可能性が高く、大家の負担とされるケースがあります。
ケース4:シロアリ被害
シロアリは建物の構造材を食害するため、建物そのものの問題として大家が対応すべきケースです。入居者の生活習慣に関係なく発生するため、費用負担は大家側になるのが一般的です。
ケース5:共用部分での害虫発生
廊下・エントランス・ゴミ置き場など共用部分に害虫が発生している場合は、大家または管理組合が費用を負担して駆除を行います。
| ケース | 具体例 | 根拠 |
|---|---|---|
| 建物構造の問題 | 壁の亀裂から虫が侵入 | 修繕義務(民法606条) |
| 共用配管の問題 | 排水管の劣化でゴキブリ発生 | 建物設備の管理責任 |
| 入居前から生息 | 入居直後のゴキブリ大量発生 | 引渡し時の瑕疵 |
| シロアリ被害 | 床下のシロアリ食害 | 構造材の問題=修繕義務 |
| 共用部分の被害 | 廊下やゴミ置き場の害虫 | 共用部の管理責任 |
自己負担になるケース
以下の場合は、入居者が自分で対処し、費用も自己負担となる可能性が高いです。
ケース1:清掃不足やゴミの放置
室内の清掃が不十分だったり、ゴミを長期間放置している場合は、善管注意義務に違反しているとして入居者の自己負担とされます。
ケース2:食品の管理不備
食品を密閉せずに放置したり、食べかすを掃除しなかったりして害虫が発生した場合は、入居者の生活習慣に起因するものとして自己負担が基本です。
ケース3:長期入居後の発生
入居から長期間が経過してから害虫が発生した場合は、入居者の生活環境に起因する可能性が高いとみなされ、自己負担を求められることが多いです。
ケース4:一般的な虫(蚊・コバエなど)
蚊やコバエなど、日常的に発生する一般的な虫については、入居者自身が市販の薬剤などで対処するのが通常の対応です。

判断が難しいグレーゾーンのケース
現実には、原因が明確に特定できないケースも多くあります。
| ケース | 状況 | 判断の傾向 |
|---|---|---|
| 隣室からの侵入 | 隣人の不衛生な生活でゴキブリが自室に侵入 | 管理会社に相談→隣人への指導を依頼 |
| 1階の虫の多さ | 1階は構造上虫が多いが、入居者も選んで住んでいる | 大家と折半、または建物起因分は大家負担 |
| 築古物件の隙間 | 古い建物の隙間から虫が入るが、入居時に承知していた | 大家の修繕義務に含まれると判断されやすい |
| ベランダの虫 | バルコニーに蜂の巣ができた | 共用部分扱いで大家負担の場合が多い |
グレーゾーンのケースでは、まず管理会社に相談し、話し合いで解決するのが基本です。いきなり自分で業者を手配して後から請求するのは、トラブルの原因になりやすいため避けてください。
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害虫駆除110番の公式サイトはこちら害虫が発生したときの正しい対処手順
賃貸物件で害虫が発生したら、以下の手順で対応しましょう。
ステップ1:証拠を記録する
害虫の種類、発見した場所、日時を記録し、写真を撮影しておきます。大量発生の場合は動画も有効です。この記録は、後の交渉や原因の特定に役立ちます。
ステップ2:管理会社(大家)に連絡する
自分で駆除業者を手配する前に、必ず管理会社に連絡してください。事前に相談なく業者を呼んで費用を請求しても、大家が負担してくれない可能性があります。
ステップ3:原因の調査を依頼する
管理会社に連絡したら、害虫の発生原因を調査してもらいます。建物の構造や配管に問題があるのか、入居者の生活環境に原因があるのかを明確にすることが、費用負担の判断材料になります。
ステップ4:駆除方法と費用負担を確認する
管理会社と相談のうえ、駆除の方法と費用の負担について合意してから業者を手配します。口頭でのやりとりだけでなく、メールなど記録に残る方法で確認しましょう。
- 管理会社に相談せず自己判断で業者を手配しない
- 費用負担の合意を得る前に作業を進めない
- やりとりはメールなど記録に残る方法で行う
- 契約書の特約条項を事前に確認しておく
入居時の契約書で確認すべきポイント
賃貸契約書には、害虫駆除に関する特約が記載されている場合があります。
| 特約の例 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 「害虫駆除は入居者負担とする」 | 害虫駆除費用は原因に関わらず入居者が負担 | 建物起因の場合は無効と判断される可能性あり |
| 「入居時に消毒料を徴収する」 | 入居前の消毒費用を入居者が負担 | 内容と金額が妥当かどうか確認する |
| 「小修繕は入居者負担」 | 軽微な修繕を入居者が行う特約 | 害虫駆除が含まれるかは解釈による |
特約があっても、消費者契約法により入居者に一方的に不利な条項は無効とされる場合があります。不当と感じる特約については、消費生活センターに相談することもできます。

自分でできる賃貸物件の害虫予防
費用負担のトラブルを防ぐためにも、日頃から害虫予防を心がけましょう。
- キッチンの食べかすや油汚れをこまめに清掃する
- 生ゴミは袋の口を縛り、蓋付きのゴミ箱に捨てる
- 排水口にフィルターを設置し、定期的に清掃する
- 玄関ドアの下部に隙間テープを貼る
- エアコンのドレンホースに防虫キャップを取り付ける
- 室内の湿度を55%以下に保つ
よくある質問(Q&A)
Q. 入居前の消毒料は必ず払わなければなりませんか?
A. 入居前の消毒は任意であることが多く、法的な義務はありません。契約書に明記されている場合でも、費用と内容が妥当かどうか確認してください。不明点があれば管理会社に詳細を聞き、必要性に疑問がある場合は断ることも可能です。
Q. 管理会社が対応してくれない場合はどうすればよいですか?
A. 書面(メール・内容証明郵便など)で正式に対応を要請し、記録を残しましょう。それでも対応がない場合は、各自治体の消費生活センターや、住宅紛争処理支援センターに相談することができます。弁護士への相談も選択肢のひとつです。
Q. 退去時にゴキブリが原因で原状回復費用を請求されることはありますか?
A. ゴキブリの糞や油汚れで壁紙や床が著しく汚損している場合は、善管注意義務違反として原状回復費用を請求される可能性があります。ただし、通常の使用による経年変化は入居者の負担にはなりません。
Q. 大家が害虫駆除の専門業者に依頼してくれましたが、完全に駆除できませんでした。責任は問えますか?
A. 判例では、大家が専門業者に依頼して駆除を行わせた場合は、完全な駆除が達成できなくても使用収益させる義務の不履行にはあたらないとされています。ただし、何度依頼しても改善されない場合は、別の業者への変更を求めるなどの交渉は可能です。
Q. ハチの巣がベランダにできた場合、誰が駆除しますか?
A. マンションのバルコニーは一般的に共用部分にあたるため、管理会社や大家に連絡して対応を依頼してください。スズメバチの場合は危険性が高いため、自治体が無料で駆除してくれる場合もあります。各自治体の窓口に確認してみましょう。
まとめ
賃貸物件の害虫駆除費用は、一律にどちらが負担するとは決まっておらず、原因によって判断されます。
- 建物の構造・設備に起因する被害は大家負担(修繕義務)
- 入居者の生活習慣が原因の場合は自己負担(善管注意義務)
- 害虫発見時は写真を撮り、まず管理会社に連絡する
- 管理会社に相談せず自分で業者を手配するのは避ける
- 契約書の特約条項を入居前に確認しておく
- 日頃の清掃と予防対策でトラブルを未然に防ぐ
大切なのは「誰の負担か」で揉める前に、まず管理会社と冷静に話し合うことです。記録を残しながら丁寧に対応すれば、多くのケースで円満に解決できます。
参考:弁護士法人ALG 害虫が発生した場合の賃貸人の責任 / スマイティ 賃貸アパートの害虫駆除の費用負担 / 飯島興産 賃貸物件での害虫駆除は誰の負担なのか
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